連載
女の気持ち
女性読者からの投稿欄「女の気持ち」。「男の気持ち」とともに出来事や悩みなど「時代の心」を映しています。
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時間外診療 佐賀県神埼市・谷本敏子(主婦・74歳)
2024/6/16 05:03 563文字ほぼ夏日の中、田植え交流会に参加した。朝は涼しめだったので、夫は黒い長袖を着ていた。周りの風景や大気を香りづけている木々たち。お弁当もおいしく食べて、帰りのくねくねとした道を下っていると、夫が車を止めてほしいという。ドアを開けると、中腰で吐き始めた。この後何度か車を止めて、吐くを繰り返した。顔色も
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手巻きの腕時計 兵庫県尼崎市・大森千鶴子(無職・71歳)
2024/6/16 05:03 544文字そろそろ終活をしようと小物入れを整理していると、何枚かの記念硬貨とベルトのない腕時計が出てきた。 今時珍しい手巻きの紅色した文字盤の時計。高校に入学した折、母が貧しい家計を切り詰めてお祝いに買ってくれたものだった。 卒業後、就職してから、もっとオシャレな時計が欲しくなった。お給料で新しい物を買って
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91歳の一人旅 千葉県船橋市・新藤尚子(無職・91歳)
2024/6/16 02:03 542文字5月24日、私がいた品川駅のホームに新幹線が滑り込み、停車しました。静岡までの旅の始まりです。少し緊張して乗り込みました。 一人旅を息子が応援してくれて、切符や時刻を書いたメモを用意してくれました。それを握りしめ、車窓に目をやっているうちに富士山が大きく姿を現しました。私は心で歓声を上げました。
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頑張り続けた姉 福島県小野町・橋本利美(パート・67歳)
2024/6/15 02:02 530文字1950(昭和25)年6月生まれの姉は先日、74歳になった。 幼いころに見た姉の姿は忘れられない。わが家は昔、とても貧しく食べるものも着るものもなかなか手に入らなかった。高校受験を控えた姉はミカン箱を机代わりにして裸電球を頭上に垂らし、すきま風が入る薄暗い部屋で必死に勉強していた。綿入れはんてんを
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酸っぱい梅干し 大阪市西成区・金元美根子(無職・71歳)
2024/6/14 05:10 520文字梅雨入りが近づくと、子どもの頃に両親が力を合わせて梅干しを漬けていた姿を思いだします。父が赤紫蘇を一枚一枚塩もみし、ギュッと絞って入れると、鮮やかな色に変化するのを見るのが楽しかったなあ。自家製の酸っぱい梅干しで育った私は、混じりけのない本来の梅干しがお気に入りです。 還暦を過ぎて中学生時代の友人
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池の看板 長崎県佐世保市・木村輝子(主婦・79歳)
2024/6/13 05:24 559文字散歩で立ち寄るダム湖のほとりに、町内で管理しているニシキゴイの池がある。盗難防止のためだろう。看板が立てられていて「池の魚たちへ、知らない人についていかないこと」と書かれている。3年ほど前に初めてこれを目にした時、思わず笑ってしまった。そして何とユニークな名文句だろうと感心した。 この看板を読むと
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願い事変更 大阪府高槻市・高井邦子(主婦・75歳)
2024/6/13 05:24 534文字還暦を過ぎたころから、「夫より先に逝きたい」と切に願ってきた。 私は家事以外、全部夫に頼ってきたので、一人では生きていけないと言っても過言ではない。ところが、私が胃の検査を受ける前の夜、思わぬ夫の本音を知った。 「わしより先に死ぬなよ」 夫がボソっと言ったのだ。照れ屋な夫の思わぬ言葉に驚いた。 「
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学ぶ楽しさ 岐阜市・高納実咲希(大学生・18歳)
2024/6/13 02:00 509文字4月から、大学の教育学部で学んでいる。今までとは異なる視点から教育について学ぶことは新鮮で、とても楽しい。 印象に残った授業がある。それは「学級は必要か、不要か」について話し合った授業だ。 初めの話し合いでは「学級は必要」という意見を持った学生が9割以上で、私も必要だと考えていた。 しかし、先生は
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クロスワード 福岡市西区・伊原千津子(86歳)
2024/6/12 05:07 559文字パズルの中で、私が一番好きなのはクロスワードである。女子大生の時、寮生活で4人部屋だった。ある日誰かがクロスワードを持ち出し、わいわいがやがや面白く楽しく解いた。同学年の人が「東大生は一発で解くらしいよ」と言ったのを覚えている。卒業してからずっと、クロスワードを忘れていた。楽しむようになったのは、
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真夜中の桜と… 奈良県生駒市・鳥山有里子(主婦・59歳)
2024/6/12 05:06 544文字先日、父の四十九日の法要を終えた。父は入退院を繰り返した後、92歳で亡くなったが、年齢の割には頭はしっかりしており、入院中、差し入れの新聞や本を読み、何か気になることがあればよく電話をかけてきた。冗談交じりに「病院でお父さんほどウクライナ情勢やアメリカの大統領選挙を気にしている人っていないんじゃな
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レジでの出来事 茨城県龍ケ崎市・小川文子(自営業・67歳)
2024/6/12 02:01 566文字施設にいる義父に好物のメロンを差し入れようとスーパーに行った。どのレジもまあまあ混んでいるが、私の列だけなぜか先に進まない。 この店のレジはすべて有人だ。現金もしくは店専用のカードを店員に手渡して払うシステムだが、前にいた高齢の女性客のカード残額がゼロで、支払うことができないようだ。使用するには事
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温かいお葬式 兵庫県姫路市・津組万智子(主婦・81歳)
2024/6/11 05:07 525文字コロナ禍時代以降、葬儀はほとんどが家族葬になり、少人数で営まれるようになった。しばらく見かけないと思っていたら、知らない間に亡くなられていて、びっくりすることがよくある。 以前、私が住んでいる地域では、朝方に訃報を知らせる有線放送が流れた。取るものも取りあえず駆けつけ、お別れに行っていた。とりわけ
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夫は孝行息子 西東京市・酒井和子(無職・71歳)
2024/6/11 02:00 538文字夫は、昨年12月に入院した義兄に代わって義母と同居するため、東京から京都に移り住んでいます。 義母は103歳。自立した日常生活が可能で、まことにあっぱれなのですが、夫はそばで生活を共にしたいのだと思います。 私たちは話し合うまでもありませんでした。「一日も早く行ったら? 当分帰ってこなくていいわよ
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冷蔵庫 神戸市東灘区・木村暢子(舞台俳優・54歳)
2024/6/9 02:00 538文字わが家の冷蔵庫には扉の横に油性ペンで「23年6月23日」と書いてある。父母と一緒に近所の家電量販店に買いに行った日だ。わが家の習わしらしい。 どれにしようか、安くてちょうどいい大きさを悩んで決めた冷蔵庫。中には母が作ったイカナゴのくぎ煮がたくさん入っている。春になると、東京で1人暮らしをしていた私
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取材の思い出 山口県岩国市・金徳志津江(会社員・65歳)
2024/6/8 05:19 560文字18年前、新聞の片隅に小さなエッセーの公募記事を見つけた。エッセーなんてしゃれた言葉に少し物おじしたけれど、進学のため夜行バスで上京する息子を見送った時の気持ちを言葉に残しておきたくて、衝動的に文章を書いた。そうして送った原稿用紙数枚の作文が入選などしたものだから、あれから調子に乗って文章を書いて
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梅干し 神奈川県秦野市・橋爪真理子(無職・74歳)
2024/6/8 02:01 538文字母の生前、施設に見舞ったときのこと。珍しく母が大きな声で職員と言い争っている場面に出くわした。 母の希望で差し入れた自家製の梅干しを「冷蔵庫に入れる」と施設側に言われ、「うちの梅干しにカビが生えるわけがない」と言い張っていたのだ。介護士や看護師らが説得に来ていた。 私が「食べてみて」と差し出した梅
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私の一人旅 大阪府茨木市・禾野静代(主婦・77歳)
2024/6/7 05:26 579文字◇禾野(のぎの)静代 5月10日の本欄「一人旅」のタイトルに引き寄せられた。独身時代に一人旅をしていた頃のワクワク感が呼び覚まされたからだ。 読み始めると、想像していた内容とは異なっていたが、投稿者の前向きな気持ちと、5人きょうだいの仲の良さやお元気な様子にいつの間にか笑みを浮かべていた。 私は高
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天からの贈り物 福岡県福津市・坂井紀子(80歳)
2024/6/7 05:26 554文字最近、新聞などで高齢者の写真をしみじみ見るようになった。ほほ笑みを浮かべたいい表情だなあと感じる人が多い。更には男性と女性の表情にあまり差がないように見えるのも不思議である。 先日、同級生のSさんが皆を大笑いさせた事件があった。駅前で数人と話していたSさん、急にトイレに行きたくなり急ぎ足で向かった
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詩画集 北九州市小倉北区・田代勝世(自営業・85歳)
2024/6/6 05:29 575文字詩画作家・星野富弘さんの訃報に接し、驚きました。詩画集「風の旅」「鈴の鳴る道」2冊を書棚から取り出して再度読みました。色彩豊かな身近で素朴な花の絵に生きる喜びが表れ、メッセージに感動を新たにしました。 娘が17歳の時、誕生日プレゼントに「鈴の鳴る道」を贈りました。娘は3歳児健診で心臓に雑音があると
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よしずの障子 大津市・石塚里恵(主婦・77歳)
2024/6/6 05:29 550文字毎年、初夏が近づくと気持ちがソワソワして落ち着かなくなります。座敷のふすまをよしずの障子に入れ替える“衣替え”が私のルーティンになっているからです。 実家は下町のいわゆるうなぎの寝床で、冬は寒く、夏は暑い。毎年5月のお祭りが終わると、母が玄関と次の間の入り口に竹製のすだれを掛けていました。そして口
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