連載
男の気持ち
男性読者による投稿欄「男の気持ち」。「女の気持ち」とともに出来事や悩みなど「時代の心」を映しています。
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6月の新しい顔 奈良県王寺町・中谷浩士(無職・83歳)
2024/6/15 05:02 545文字玄関扉の修理が終わった。扉を開けて右側には備え付けのゲタ箱があり、上には友が描いてくれた風景画や花瓶などを置いている。季節によってはひな人形を飾ったり、アケビやドングリが並ぶことも。わが家の顔である。 扉を新しくしたこともあり、突然、その顔を変えたくなった。妻に、2階の物置で眠っている絵を持ってき
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蕨愛 福岡県遠賀町・村岡昇蔵(84歳)
2024/6/15 05:02 573文字先日の本欄「女の気持ち」で、蕨(わらび)狩りの思い出話を懐かしく拝読した。私も子供の頃の蕨狩りについてはいろいろな思い出がある。 育ちは鹿児島県の山奥で、3月半ばごろになると開けた山裾に入り蕨採りをした。量の多少にかかわらず、母が喜んでくれるのがうれしく、暇があったら蕨採りに駆け回っていた。母に渡
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呼びかけ 北九州市小倉南区・松川幸雄(89歳)
2024/6/14 05:09 570文字友人を見舞った帰り、門司駅(北九州市)から電車に乗りました。私の前につえをついた老婦人が乗って、入り口近くに座りました。次の駅で高校の男子生徒が数人乗ってきて全員携帯電話を出し、話し始めました。時折大きな声で笑っています。 老婦人は男子生徒を避けるように別の空席に移りました。次の駅で女子生徒数人が
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父の日を前に 千葉県我孫子市・宮島聖(無職・82歳)
2024/6/14 02:00 548文字今から50年以上前のこと、「チチキトク」の電報が会社に届き、わずかな望みを抱きながら列車に飛び乗った。故郷の駅に向かう間、流れる涙が止まることはなかった。父が入院していた病院に駆けつけたが、すでに家に運ばれた後だった。 父は一時期、地元の製材工場で働いていた。子どものころ、その工場にあったおがくず
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大雨の記憶 北九州市八幡西区・前田裕司(67歳)
2024/6/11 05:08 563文字今年も雨の季節がやって来る。今は雨による災害の可能性は少ない場所に住んでいるが、この季節になると実家で暮らしていた時の出来事が思い出される。 実家は小高い丘の上にあった。その丘にぶつかるように急激に流れを変えた川があった。大雨の度にあふれた泥水が田んぼを覆い、海のようになった景色を幼いころから何度
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近藤師範の導き 大阪市平野区・志鷹豪次(ライター・65歳)
2024/6/8 05:19 558文字「健康川柳」の選者、近藤勝重さんが亡くなった。あまりにも急だったので信じられず、信じたくなかった。 一度だけ掲載された句がある。「満たされた心の隅にある不安」。その時の心情を詠んだが、近藤師範の「つらいことから書いてみよう」の教えから出た一句だった。 ターニングポイントにはいつも近藤師範がいてくだ
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東京の灯 千葉県流山市・秋山良治(無職・75歳)
2024/6/7 02:01 531文字故郷である新潟の糸魚川から旧国鉄の在来線を使って東京を目指すには、いくつかのルートがあった。最も頻繁に使ったのが長岡から上越線に入り越後湯沢、群馬の高崎を通るルートで、当時は特急「はくたか」が走っていた。 埼玉県に入り熊谷、大宮を通るとだんだん東京が近づいてくる。荒川を渡ると右側にS学園の青いネオ
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百名山に挑む 福岡県宗像市・浜尾幸一(会社員・75歳)
2024/6/4 05:07 570文字妻が大腿(だいたい)骨を骨折して4年目。今でも週数回のリハビリのウオーキングで、妻と1回に5000~7000歩を歩く。お陰で30年余り続く私の登山はせいぜい月に数回のペースにせざるを得なかった。しかしリハビリの効果は歴然で、最近では私の歩行速度にそんなに遅れなくなってきている。そろそろ登山のペース
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ささやかな幸せ 埼玉県宮代町・野口昌男(無職・80歳)
2024/6/2 02:01 518文字80年生きてきた。もし「幸せだと思ったときはいつ?」と聞かれたら、ある光景を思い浮かべる。 50年以上前、結婚したばかりの私は毎夜、妻と自転車に乗って隣町の銭湯に出かけていた。真っ暗な夜道は青い田んぼに囲まれている。さわやかな初夏の風が心地よかった。 そのとき、目の前をついと青白い光が横切った。ホ
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初孫の通園 長崎市・松下清(75歳)
2024/5/30 05:06 570文字東京に住む共働きの次男夫婦の子供が4月から保育園に通っている。私にとっては待望の初孫だが、入園当時1歳1カ月でクラスの中で生まれが一番遅かったので、元気に通園できるか心配だった。 孫は入園式の翌日から通園したが初日は大泣き、翌日は給食をあまり食べず、次の日は元気がなくなり自宅に戻って熱を出した。病
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チーちゃんへ 山形県酒田市・鈴木正人(無職・78歳)
2024/5/29 02:01 546文字チーちゃんは晩婚だった私が40歳のとき生まれた娘だ。その娘が縁あって来月、結婚する。 まじめでおとなしく、うそのつけない子で、いつも親や周りの人を気にかけてくれる。娘が初めて言葉を話すようになったとき、どういうわけか私を「マーちゃん」と呼んだ。それは今も続いている。気恥ずかしいこともあるが、でもう
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逆上がり 長崎市・奥貫賢治(75歳)
2024/5/23 05:17 551文字わが家に遊びに来ていた小学3年の孫息子が退屈そうにしていたので、近くの公園へ連れ出した。スポーツ万能を自他ともに認める彼は公園に到着するや否や鉄棒めがけてまっしぐらに突進。得意の逆上がりを難なくこなし鼻高々だ。はたから見ると、きっと孫と祖父のほほ笑ましい光景に見えたことだろう。 ところが、あろうこ
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恩師の一言 福岡県宗像市・内徳雄二(75歳)
2024/5/22 05:09 523文字中学2年の4月に転校した夏休み明け、「おい、内徳」とT先生に呼び止められた。「演劇部を作り、文化祭で公演する。演劇部に入れ」と言われた。 そんなタイプでもないので翌日断ろうと思い「考えさせてください」とその場を繕った。 翌日、先生が何やら紙束を持ち「内徳は、この役だ」と言われた。えっ、断るつもりが
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父を亡くして 埼玉県入間市・野口康昭(会社員・57歳)
2024/5/22 02:00 561文字82歳の父が亡くなった。前日まで普通に生活していたのに母が起こしにいった時にはすでに息を引き取っていた。 自営の町工場で私たち息子3人を育ててくれた。でも、父が家事をしている姿を見たことがなかった。昔の人だから「男は外で働き、女は家事をする」という考えだったのか。母も自営業で一緒に働いていたはずな
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未来談議 北九州市小倉南区・山口敬司(71歳)
2024/5/21 05:19 559文字先日、4人の孫が久しぶりにやって来た。頭は小学4年女児。内気の性格からか、自分のことを話すことはなかったが成長だろうか、開口一番「じいじ、未来って何なの」と、哲学的な問いを発した。 こちらはほぼ未来は出尽くしており、この先孫に語れるほどの未来を持つ時間は少ない。だが問いに正面から向き合おうと、自分
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つまずき 長崎県南島原市・末吉貴浩(自営業・63歳)
2024/5/18 05:08 564文字「同窓会かな?」。そんな光景を見かけるたびに、複雑な気持ちになる。私はこれまで高校時代の同窓会に出席したことがない。今まで3度ほどあったが、一度も出席していない。いや、本当は出席したかったが、どうしても出席する勇気がなかった。私の人生のたった一つの「つまずき」と言っても過言ではない。 卒業後、20
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替えさせないよ 奈良県大和高田市・菊井俊行(無職・65歳)
2024/5/18 05:07 542文字若いころ、家族経営でうどんの店をやっていたことがある。結構忙しく、昼下がりの客がいない時にたまにやる近鉄バファローズの中継だけが楽しみだった。 「おおっ! やってるな。なんや近鉄か。つまらん、阪神に替えてくれよ」 大演歌歌手の言った通り、お客様は神様である。しぶしぶチャンネルを替え奥に引っ込んだ。
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ひいきの球団 埼玉県川口市・伊草幸雄(無職・72歳)
2024/5/18 02:01 544文字小学3年生になった1960(昭和35)年、クラス替えで担任も代わり、大学を出たばかりの女性の先生が担任になった。そのときの朝礼で校長は「日本人なら巨人ファンじゃないとイカン」と、ひいきのプロ野球チームについて話した。 校長の紹介後、この担任は「私は大阪球場の近くで高校まで育ったので、南海ファンで野
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連休中の出来事 鹿児島県出水市・谷口歩(団体職員・53歳)
2024/5/15 05:07 544文字「大型連休はどこか行きたいな」と思い、タブレット端末を取り出した。心はいつのまにかカレンダーをさかのぼっていた。コンクリートに2度頭を打ち付けて頭頂部を5針縫ったのは1981年、小学5年の5月5日だ。 町の体育館の玄関前に置かれた走り高跳び用のマットに、両手をついて前転し、背中から着地する遊びに興
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文通 三重県伊勢市・北村和司(自営業・66歳)
2024/5/15 02:00 527文字今から55年も前のことになってしまったが、小学5年生のとき文通というものがはやっていた。 漫画雑誌の文通欄に載せてもらうと、毎日何十通もの文通を希望する手紙が届いた。その中から東京に住む同い年の女の子と文通を始めた。伊勢の田舎に住みながら、都会の東京に住んでいる子はどんな人だろう、とワクワクしなが
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