連載
憂楽帳
50年以上続く毎日新聞夕刊社会面掲載のコラム。編集局の副部長クラスが交代で執筆。記者個人の身近なテーマを取り上げます。
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80年前の数学ノート
2024/6/15 13:12 462文字沖縄県糸満市のひめゆり平和祈念資料館に1冊の数学ノートが展示されている。図形や平行線が精緻に描かれ、きれいな字で解説が記されている。「これ、授業で習ったよね」。来館した若い子たちからそんな感想が漏れる。 ノートは戦時中、那覇市の高等女学校に通っていた宮城祥子(よしこ)さんの遺品。1944年8月、沖
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「黒」の挑戦
2024/6/14 13:11 464文字JR九州が4月、博多―別府間(久大線など)を片道約5時間で結ぶ観光列車「かんぱち・いちろく」の運行を始めた。豪華寝台列車「ななつ星in九州」をはじめ、同社の観光列車はこれまですべてデザイナーの水戸岡鋭治(えいじ)さんが手がけてきたが、鹿児島市のデザイン会社「IFOO(イフー)」に初めて発注した。
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可視化された密室
2024/6/13 13:11 458文字犯人隠避教唆罪で有罪が確定した元弁護士の江口大和さんが、横浜地検で違法な取り調べを受けたとして損害賠償を求めた訴訟で、国が取り調べの録音・録画の映像を証拠提出した。約13分の要約版がユーチューブで視聴できる。 江口さんは逮捕から約20日間、黙秘した。これに対し、担当検事は「お子ちゃま」「どうしたら
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中東への懸け橋
2024/6/12 13:03 450文字カフェの店主は一体誰なのか。長く関係者の間で臆測を呼んでいた。「カフェバグダッド」。2004年6月にインターネット上に登場した匿名のブログで、「中東地域の食事や映画、文化に妙に詳しい」と評判になった。 店主は埼玉県在住の久保健一さん(56)だった。全国紙でカイロ、テヘランの特派員を計9年間務め、昨
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未来のために
2024/6/11 13:12 436文字使用済みの書道用紙(反故(ほご)紙)を回収し再生する。2011年に発足した一般社団法人「エコ再生紙振興会」(横浜市)が始めた「書道紙リサイクルプロジェクト」が今年度、小学4年の「書写」(光村図書出版)など教科書で初めて紹介された。 墨と紙の分離が難しいため、反故紙は古紙回収で敬遠されがちだ。大量の
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捜査の神様
2024/6/10 13:24 458文字「埼玉に『捜査の神様』がいる」。元検察幹部の言葉に誘われて、新緑まぶしい初夏の高麗神社(埼玉県日高市)を訪ねた。朝鮮半島の高句麗から渡来し、約1300年前に大和朝廷から郡の長官に任命されて、この地を開拓した高麗(こまの)王若光(こきしじゃっこう)を祭る。 捜査用語で「お宮入り」は事件の迷宮入りを指
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お尻くらい守らねば
2024/6/8 13:22 460文字「メリーズ」と「パンパース」。モスクワのスーパーでは、日本でもおなじみのこの二つの紙おむつを売り場でよく見かける。販売元はそれぞれ日本の「花王」と米国の「P&G」だ。 ロシアではウクライナでの「特別軍事作戦」を機に多くの外資が事業停止や撤退を発表し、市場では欧米企業などの商品の一部が「並行輸入品」
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「お墓参り」
2024/6/7 13:01 455文字自分とは無縁の墓を訪れるのが好きだ。 仏北西部ノルマンディーの海辺にある約9300人の米兵が眠る墓地もそうだ。80年前の1944年6月6日に第二次大戦末期のノルマンディー上陸作戦では、連合軍と防戦した独軍合わせて約10万人が戦死。芝生に整然と並んだ無数の白い十字架を前に、言葉を失ってしまう。 広島
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せめて制度は
2024/6/6 13:02 457文字性的少数者による日本初のパレードを報じた1994年8月29日の毎日新聞の記事には、見物人による同性愛者への否定的なコメントが掲載されていた。「『自分たちとは違う』と受け止めてしまいますね」。4月21日、30年の節目を迎え東京で開催されたパレードを取材し、データベースを調べて見つけた。 数日後、似た
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フライフィッシング
2024/6/5 13:05 451文字あと1カ月余りで40代最後の1年に突入する。だからなのか、長年、やってみたいと思っていたことを始めようと思い立った。三重県名張市で5月下旬に開かれた日本フライフィッシング協会中部支部主催の体験教室に参加し、さおの振り方や毛針の作り方を学んだ。 フライフィッシングとは、主にマスの仲間を狙う西洋式の毛
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銭湯を引き継ぐ
2024/6/4 13:08 455文字施設の老朽化と後継者問題で1年半近く休業していた新潟市西区の銭湯「旭湯」が5月、再開にこぎ着けた。1916(大正5)年創業の歴史ある老舗で、100軒以上を焼いた53年の大火で全焼したが再建された。昭和の雰囲気が漂う木造の平屋は長年、親しまれていた。 建築業を営む稲森光太郎さん(33)が受け継いだ。
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忘れ物と最新AI
2024/6/3 13:01 452文字先日、東京都内で地下鉄に乗った際、網棚の上に載せた手荷物を忘れて下車した。 地下鉄のお客様センターに電話をしたが、郊外に向かう私鉄と相互乗り入れしているその電車は、すでに地下鉄の営業エリアになく、「こちらではお調べできない」との返事。その電車を追いかけ、私鉄の問い合わせ窓口やターミナル駅に電話した
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靴の汚れ落とし
2024/6/1 13:12 453文字「靴の汚れ落とし 無料」。北九州空港2階、出発ロビー前の一角に掲げられた看板にひかれて立ち寄ると、エプロン姿の男性が笑顔で出迎えてくれた。同空港を拠点とするスターフライヤー(北九州市)の元社長だという。 松石禎己(さだみ)さん(71)。同社の社長を6年間務めた後、「お世話になった北九州空港への恩返
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琉球国王の肖像画
2024/5/31 13:16 445文字2019年の火災から復元工事中の首里城(那覇市)のほとりに来年1月、ある人物の顕彰碑が建つ。故・鎌倉芳太郎氏(1898~1983年)。1世紀前の1920年代に沖縄の歴史的建物や工芸品を調査した。実物の多くが45年の沖縄戦で失われただけに、写真やノートなどの貴重な記録は国の重要文化財になった。 歴代
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管理職の悩みの種
2024/5/30 13:13 450文字米国の株式市場が気になり、午前3時になると目が覚めた。コンタクトレンズを付けようとしても、頰がけいれんしてうまく目に入らない。顧客の顔が思い浮かび、ため息が出た。 大手証券に勤務する学生時代の友人と先日、3年ぶりに酒を酌み交わした。互いに社会人となり約20年。友人が自身の礎として挙げたのは、国内の
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畳の上の祈り
2024/5/29 13:08 446文字柔道場か旅館の大広間のような雰囲気だ。マレーシア出身のゾルカナインさん(50)が運営する「ジャパンダアワセンター」(大阪市住吉区)は、世界でも珍しい畳が敷き詰められたイスラム教礼拝所だ。 20歳で日本に留学。日本人女性と結婚し、日本企業に21年間勤めたが、「もっと多くの日本人にイスラムの良さを知っ
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共存への道
2024/5/28 13:04 449文字東京都世田谷区や川崎市の公園で、ワカケホンセイインコをよく見かける。鮮やかなライム色の体にピンク色のくちばし。鳴き声も大きい。群れで行動することが多く、目立つ鳥だ。 もともとインドなどに生息する外来種。ペットなどとして日本に輸入され、逃げたり放鳥されたりして定着した。この鳥を調査する日本鳥類保護連
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免許返納
2024/5/27 13:06 435文字ちょうど7年前に母が急逝し、田舎に独り、父を残している。間もなく後期高齢者。盆暮れには顔を見るようにしているが、男やもめは生きにくそうで、会う度に老いの進行を実感する。そんな父に大きな変化があった。運転免許証を自主返納したという。 ずっと気になっていた。実家の車は後部を中心に擦り傷やへこみが明らか
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「Z」はなぜ消えた
2024/5/25 13:00 457文字ロシアの街中には「Z」のマークがあふれている――。と、思っていた。日本にいた時、そんな報道を何度も見た。しかし、2月にモスクワに赴任して以降、ほとんど見た記憶がない。 ロシアがウクライナでの「特別軍事作戦」を始めた当初、露軍の戦車や装甲車に白のスプレーで「Z」と書かれている画像がSNSなどで拡散さ
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「こんなもんじゃない」
2024/5/24 13:06 450文字子どもと海外のニュース番組を見ていたとき、激しい戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ地区の映像が流れ、思わずテレビを消してしまった。惨状が生々しかったためだ。 不意に、数年前に広島で勤務していたときのことを思い出した。原爆を生き抜いた少年を描いた漫画「はだしのゲン」の作者・中沢啓治さん(2012年に73
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