電話や、いきなりの来院で、費用だけを訊ねる患者さんがいます。……そういう時、お答えすることは控えています。なぜなら、それは医療だからです。

 物を売る仕事を軽んじる積りはないので、誤解のないようにしてほしいのですが、買い求める物についての説明も不要で、同じ製品であれば、値段が安い方がいいという考え方もあるでしょう。

 しかし医療は、『医師という、医療を施行する人間』と、『患者さんという、医療を享受する人間』の、お付き合いだと思うのです。患者さんは医師に主訴を告げます。医師は、それに伴う診査、診断をして、説明します。患者さんが納得すれば、治療を依頼します。これを、インフォームド コンセントと言っています。

 医療費の意味を考えてみたいと思います。それが、健康保険治療であろうと、自費診療であろうと、患者さんが信頼して自らの体の健康を任せ、医師は己の良心に従い患者さんの健康のために尽くします。
              
 健康保険治療であれば、そのルール(規則)のなかで、決められた材料、方法で、治療をします。自費診療であれば、医師がその知識、技術、経験を生かしつつ、病態に対し最善の材料、器械を駆使して、水準の高い治療をします。

 そして、患者さんは治療費を払い、しかもお礼を言うのです。世の中に、お金を払ってお礼を言うのは 、医療だけではないでしょうか?

 そこに生まれる神聖な空気は、医療を行った人間の責任と充実感、および医療を受けた人間の感謝と信頼の気持ちから成る、世界ではないかと思うのですが、いかがですか?(大)